ルーセントアスリートを紹介する連載企画「LUCENT ATHLETE FILES 」の3回目は、トレイルランナー丹羽薫選手です。
当社のスポーツブランド「ルクタス(LUC+)」が日本国内で独占販売する「N&W Curve(ニューカーブ)」の第一人者であり、先日自身が挑戦するレースでも最長の、総距離450kmのトレイルランニングレース『Tor des Glaciers』に挑戦されたばかりの丹羽薫選手へのインタビューです!

――トレイルランニングの面白さをどんなところに感じていますか?
競技を始めた頃は、競うこと自体に楽しみを感じていました。アドレナリンが出ることの楽しさ、中毒みたいな(笑)。その当時と比べると、出場するレースの距離も、考え方もちょっと変わってきました。
具体的には100マイルよりも長い距離のレースに出場するようになったことです。距離が長くなればなるほど、競うことよりも、自分の弱さと対峙する時間が長くなります。不安や葛藤と向き合った上で走り続け、目的地にたどりつくことにロマンを感じるようになったんです。
レースでありながら、自分の足で旅を楽しむという感覚に近いです。今はゴールすること自体が難しいレースに挑戦しています。
――競技を始めたきっかけは何だったんですか?
14、15年くらい前に、友達からトレイルランニングって知ってる?やってみる?と誘われて、面白そうだし、連れて行ってもらいました。
初めて行ったのが六甲山縦走(50km前後)。今になって思うと無謀でしたね(笑)。
女子は私だけで、一緒に行った旦那が20kmで根を上げました。私は全然しんどくなかったんですよ。
――未経験者なのにすでに片鱗があったんですね。
向いてたのかもしれませんね。その時の経験が楽しかったから、犬の散歩がてらに山を走るようになってハマりました。2匹飼っていた犬のうち1匹が亡くなった時期で、私も、もう1匹の犬も相方ロスになって、運動しなくなっていたんです。好きだったボール遊びもしなくなっていた頃です。それで、散歩から走ることに変えたら、犬も毎日走ってくれるようになりました。
そうしているうちに、レースにも出るようになって、初出場した20kmの大会で2位になり、楽しさがさらに増しました。もしかしたら1位になれるかもって。
――アスリートとして本格的にのめり込むターニングポイントは?
「激走モンブラン」(※1)を見て、私もいつか100マイルレースを走ってみたいと思うようになりました。それで出場した最初の100マイルレースがUTMF(2014年)でした。当時は強い外国人選手が来日していて、富士山のまわりを一周するコースだった頃ですね。その時に私は女子8位で日本人女子2位に入りました。わりとやれるなと手応えを感じたレースで、そこからサロモンにスポンサードしていただけることになりました。スポンサーがつくからには本気で取り組みたいと思い、それまで以上にのめり込んでいきましたね。
※1 激走モンブラン!166km山岳レース 2009年にNHK BSで放送されたドキュメンタリー番組。世界最高峰のトレイルレース「UTMB」で、ヨーロッパアルプスの美しい山岳風景や3位に入賞した鏑木毅選手らが紹介されたことで、日本でトレイルランニング人気が高まった。
――本気になって、それまでの生活との変化はありましたか
食べるものに気を使うようになったところですね。普段のトレーニングも、ただ毎日走るだけではなく、体幹を鍛えたり、ストレッチの取り組み方も変えたりしました。
故障しないようにあしラボに通って、走り方を考えるようになりました。それまでは怪我してばかりでした。以前は故障することを考えてなくて、走れる時はいくらでも走っていました。気を使うようになってからは、体に不調を感じる時は、ジムのクロストレーナーを使ったり、泳いだりして走らないトレーニングを取り入れるようにして、自分の体と対話するようになりました。
――得意とされるロングレースはどんなところに醍醐味がありますか。
いろんなトラブルが起きる中でトラブルシューティングしていくことに楽しみを感じています。毎回反省して、対策を練るんですけど、毎回違うことが起きるのがロングレースです。トラブルが起きて、へこんで心が折れてしまうのではなく、どうやって乗り越えるかを考えるところに面白みがあります。
とはいえ、いまだに立ち直れていない出来事もあります。
コロナ明けの2022年のUTMBです。この時はそうとう意気込んでいたんですけど、エイドでヘッドライトを受け取れませんでした。昼間は小さい軽量のものを持って、夜間には光量の大きなものに変える予定だったんですけど、サポートに入っていた方が持ってくるのを忘れていたんです。
その時は小さいやつで、なんとか乗り切りました。
――今年9月に出場した450kmの山岳レース・TOR DES GLACIER(※2)は、大会前からとても過酷なレースになると話されていました実際に走ってみて、どんなレースでしたか?
私が出場してきた中でも、過去最長の距離で、過去最高にやばいコースでした。睡眠不足なうえに、疲労しているときに行くのは危険な箇所がいくつもありました。本来ならロープで安全確保してから進む垂直の壁があって、そこを鎖を頼りに下りていきます。夜間に雪が降っていたこともあり、足場も手元も不安だらけで、全身に力が入ってしまい、ずっと全力で鎖を掴んでいたせいか、右腕を痛めてしまいました。
(※2)イタリア北部ヴァッレ・ダオスタ州の山岳リゾート地・クールマイユールをスタート・ゴール地点に、総距離450km、累積標高32,000mを走る山岳レース。極めて難易度の高い大会として知られており、初開催の2019年は完走率が20%を切った。総距離330kmの『Tor des Géants』を130時間以内に完走したランナーのみが出場できる。

今回は約280kmでリタイアしてしまったのですが、表彰台を狙う上で、まったく手が届かないわけではないということが分かりました。もともとの睡眠障害もあって、うまく仮眠をとることができなくて失速している時間帯があったので、1週間近く走り続ける中で、どのタイミングで仮眠をとるのかという部分は来年以降の課題です。後半まで粘っていければ、入賞はそんなに非現実的なことではないと思っています。反省点はしっかり反省してまた頑張ります。
――トレイルランナーとして今も世界のレースに挑む一方で、国内では100マイルレース「LAKE BIWA 100」をプロデュースされています。アスリートとしての活動だけでも多忙な中、準備や運営に多くの時間を費やすのはなぜですか?
これまでの活動を通して、さまざまな形でバックアップしてくださるスポンサー企業であったり、活動資金を募るクラウドファンディングで支援してくださる多くの方に支えられてきました。山岳アスリートとして挑戦し続ける中で得た経験を、次は自分がほかの方々に恩返しをしたいと考え、レースをプロデュースするに至りました。
海外のレースをたくさん走ってきて、私自身が日本のレースにちょっと物足りないと感じるようになったところもあります。海外のレースでは、ランナーの権利をすごく大切にしてくれて、なんとか完走させてあげようというマインドがあります。もちろん日本のレースでも、そういったマインドのあるレースもありますが、全体で見ると、まだ足りないのかなと思います。具体的には制限時間が極端に短くて厳しくなっているレースなどですね。
せっかく出場するからには、できるだけ多くの人に完走してもらいたいなと思っています。制限時間はたっぷりあるけど、コースはとても厳しくしてバランスを取っていますが、どうなんでしょうね。制限時間が厳しいという人は多いです(笑)。前半の関門はゆるく設定してあって、できるだけ多くの人がパスできるようにしてあります。高いお金を払って、はじめの20kmでリタイアだとショックじゃないですか。

――国内にとどまらず、海外からも出場する選手が増え、人気のレースになってきました。目標とするのはどんなレースでしょうか。
国内の有名100マイルレース・Mt. FUJI 100や信越五岳(トレイルランニングレースを完走した選手にとって次の目標になってほしいですね。難しいコースだけど完走したいと思っていただけるような大会です。その一方でエイドやコース上のスタッフはホスピタリティにあふれていて、満足度の高いレースが理想です。レースだけに集中できる状態で、LAKE BIWAに挑戦していただきたいからです。私自身、難しいことに挑戦し続けることが好きですし、その方が楽しいのかなと思っています。目標にしていただける大会であり続けたいです。
丹羽 薫|トレイルランナー

ヨーロッパや日本の各地での山岳レースで数多くの実績を誇る日本女子のトップランナー。世界最高峰のウルトラトレイルレースである『UTMB』でも2017年には総合4位で入賞(日本女子歴代最高位)されるなど、厳しいアップダウンを含む長距離の山岳レースを強みに、ヨーロッパ各地の難易度の高い山々のレースを踏破している。
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